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iDeCoは「毎月いくら積むか」ばかりが話題になります。ですが本当に難しいのは、受け取るときのほうです。
同じ金額を積み立てていても、いつ、どういう形で受け取るかによって、手元に残る額が数十万円単位で変わることがあります。しかも自衛官の場合、一般の会社員とは事情が違います。
私がiDeCoを始めたのは、職場で、iDeCoについての教育の機会があったからです。「とにかく始めたほうがいい」という話だったので、すぐに飛びつきました。控除の意味もよく分からないまま、最初は満額の月1万2,000円を、定期預金で積み立てていました。のちに、株式で運用する商品に切り替えました。
現在は、NISAを優先して、iDeCoは最低額の月5,000円にしています。60歳まで引き出せないことや、手数料がかかること、受け取るときの判断が難しいことを考えて、そう決めました。
この記事では、退職金とiDeCoの関係を整理していきます。少し込み入った話になりますが、知らないまま受け取ってしまうと取り返しがつかない部分ですので、順を追って説明します。
そもそも、退職所得控除とは何か
退職金やiDeCoの一時金は、給与とは別の「退職所得」として扱われます。ここには大きな控除が用意されています。
計算の目安は次のとおりです。
- 勤続20年まで:1年あたり40万円
- 勤続20年を超えた分:1年あたり70万円
勤続30年であれば、40万円×20年+70万円×10年で1,500万円。この範囲に収まる退職金であれば、税金はかかりません。長く勤めた人ほど控除が大きくなる仕組みです。
入隊パターン別に見た控除額の目安
自衛官の場合、入隊時期によって勤続年数が大きく変わります。定年を55歳と仮定した場合の目安が、こちらです。
| 入隊パターン | 入隊年齢 | 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|---|---|
| 高等工科学校(旧・少年工科学校)から | 15〜16歳 | 39〜40年 | 2,130〜2,200万円 |
| 高卒で入隊 | 18歳 | 37年 | 1,990万円 |
| 大卒で入隊 | 22歳 | 33年 | 1,710万円 |
一般的な会社員と比べて、控除枠はかなり大きくなります。若いうちから勤め始める方が多いためです。
ただし、この表はあくまで目安としてご覧ください。注意点が3つあります。
1つ目は、生徒課程の扱いです。 2010年に少年工科学校から高等工科学校へ改編された際、生徒の身分が変わりました。それ以前の「陸上自衛隊生徒」は入校時から階級を持つ自衛官でしたが、現在の高等工科学校生徒は自衛官ではなく特別職国家公務員です。世代によって、起算点の扱いが変わる可能性があります。
2つ目は、定年の引き上げです。 自衛官の定年は段階的に引き上げられていて、令和10年度(2028年度)以降も、さらに引き上げる予定が示されています。最新の内容は、防衛省の公式ページで確認してください。勤続20年を超えていれば、勤続年数が1年増えるごとに、控除額は70万円増えます。
3つ目は、定年年齢が階級によって異なることです。 現在の定年は、階級によって55〜58歳です(将・将補を除く)。上の表は55歳を前提にしていますので、ご自身の階級で置き換えてください。
退職手当のほかに、若年定年退職者給付金があります
ここが、一般の会社員との一番大きな違いです。
自衛官には、退職手当とは別に若年定年退職者給付金が支給されます。一般の国家公務員より早く定年を迎えることへの補填で、2回に分けて支払われます。
金額は小さくありません。たとえば、退職手当が約1,800万円、若年定年退職給付金が2回合計で約1,210万円という人の場合を考えてみます。合わせると3,000万円規模です。なお、この金額は、計算の仕組みを説明するための仮の例です。
若年定年退職者給付金は、2026年の法改正で、給付水準が段階的に引き上げられました(2026年4月以降の退職者から適用)。実際の金額は、階級や勤続年数、退職時の条件によって変わり、上の例より増える場合があります。最新の内容は、防衛省や地方協力本部で確認してください。
そして、この給付金は1回目と2回目で税務上の扱いが違います。
先ほどの例では、給付金は1回目が約350万円、2回目が約860万円という内訳だとします。金額が大きいのは2回目のほうですが、税制上は2回目のほうが有利に扱われます。
| 所得区分 | 退職所得控除への影響 | |
|---|---|---|
| 退職手当(約1,800万円) | 退職所得 | 控除枠を使う |
| 給付金 1回目(約350万円) | 退職所得 | 控除枠を使う |
| 給付金 2回目(約860万円) | 一時所得 | 控除枠とは無関係 |
防衛省の「若年定年退職者給付金の課税上の取扱いについて(通知)」に基づくもので、2回目については支払調書が交付され、一時所得として課税されます。一時所得は50万円の特別控除を差し引き、残額の2分の1が他の所得と合算されます。
つまり、退職所得控除の枠を消費するのは「退職手当+給付金1回目」です。上の例なら約1,800万円+約350万円で、合計およそ2,150万円。これが控除枠と比べる対象になります。給付金2回目の860万円は、金額こそ大きいものの、退職所得控除の枠には影響しません。ここを混同すると、計算が合わなくなります。
問題は、この控除を退職金とiDeCoで二重に使うことはできないという点にあります。
2026年1月、ルールが変わりました
2026年1月1日以降に受け取る分から、退職所得控除の計算方法が見直されました。
これまでは、iDeCoの一時金を先に受け取り、その後に退職金を受け取る場合、5年以上空いていればそれぞれの控除を満額使えました。この間隔が、10年に延長されています。
法令上は「前年以前9年以内」という表現ですが、実務上は10年空ける必要があるため「10年ルール」と呼ばれています。
iDeCoを先に受け取る場合は、退職金との間隔に、特に注意が必要になりました。
自衛官が受けやすいのは、実はもう一つのルールです
ここからが、この記事で一番お伝えしたい部分です。
上の10年ルールは「iDeCoを先に受け取る」場合の話でした。ですが自衛官の多くは、逆の順番になります。
退職金を先に受け取る立場だから
自衛官は50代で定年を迎える方が多く、退職金もその時期に受け取ります。一方、iDeCoを受け取れるのは60歳以降です。
つまり、退職金 → iDeCo という順番になります。
この順番の場合に適用されるのは、10年ルールではありません。「前年以前19年内」を対象とする、通称19年ルールのほうです。こちらは今回の改正前から存在していました。
19年を空けるのは、現実的に難しい
たとえば55歳で退職金を受け取り、60歳でiDeCoを一時金として受け取るとします。間隔は5年です。19年には遠く及びません。
そもそも55歳から19年後は74歳です。一般の会社員でも、60歳で退職金を受け取れば79歳まで待つ計算になります。このルールを満たすことは、現実的にほぼ不可能だと考えたほうがいいと思います。
この場合、iDeCo側の退職所得控除は、重複する期間分が差し引かれて計算されます。満額は使えないという結果になります。
まず確認すべきは、控除枠を使い切っているかどうか
ただし、影響の大きさは人によって変わります。判断の分かれ目は、退職所得の合計が控除枠に収まっているかどうかです。
ここで使うのは、退職手当だけではありません。退職手当と給付金1回目の合計で見てください。
- 合計が控除額を超えている → 枠を使い切っている。iDeCo側で使える控除はほとんど残りません
- 合計が控除額に収まっている → 枠に余りが出ます。その分をiDeCo側で使える可能性があります
先ほどの表と、ご自身の見込額を並べてみてください。この比較が、出口戦略を考える出発点になります。
先ほどの例で試してみます。56歳で退職し、仮に18歳入隊とすると勤続38年。退職所得控除額は800万円+70万円×(38−20)で2,060万円です。一方、控除枠を消費するのは退職手当+給付金1回目でおよそ2,150万円。わずかに控除枠を超えます。 この場合、iDeCoを一時金で受け取っても、乗せられる控除はほとんど残っていないことになります。
もちろん、これは一例です。入隊年齢が遅ければ勤続年数が短くなって控除枠も小さくなりますし、階級や退職年齢が変われば退職手当も変わります。だからこそ、自分の数字で確かめる必要があります。
退職手当の見込額も給付金の内訳も、資料を当たれば数字自体は出てきます。ただ、そこから自分のiDeCoの受け取り方まで組み立てるとなると、手が止まる方が多いのではないでしょうか。最近はこうした試算をLINE上で相談できる窓口もありますので、数字を並べる段階から使ってみるのも一つの方法です(記事の後半で詳しく触れます)。
一般の会社員向けに書かれた記事を読んでも、この答えは出てきません。 定年の時期が違いますし、給付金という仕組み自体が自衛官特有のものです。制度も世代で変わっています。ここが、自分の状況に置き換えて確認しなければならない理由です。
では、どうすればいいのか
対策として挙げられているものを整理します。ただし、どれが有利かは個々の状況によって変わります。
1. 一時金ではなく、年金形式で受け取る
iDeCoは一括で受け取るほかに、分割して年金形式で受け取ることもできます。年金形式で受け取る分は退職所得ではなく雑所得として扱われ、公的年金等控除の対象になります。
退職所得控除の重複調整という問題からは外れますので、退職金で控除枠を使い切っている方には有力な選択肢になり得ます。
ただし、副作用があります。 雑所得が増えることで、国民健康保険料や介護保険料、医療費の自己負担割合に影響が出る可能性があります。所得税だけを見て年金形式を選んだ結果、別のところで負担が増えたということも起こり得ます。
「退職所得控除を最大限使うこと」が常に正解とは限らない、という点は押さえておいてください。
2. 一時金と年金を組み合わせる
全額をどちらかにする必要はありません。控除枠の残りに収まる分だけ一時金で受け取り、残りを年金形式にするという分け方も可能です。
この「どこで線を引くか」が、手取りを左右します。
3. 受け取る年齢をずらす
再就職の状況によっては、iDeCoの受給開始を後ろにずらす選択もあります。2026年12月には加入可能年齢や拠出限度額の拡充も予定されており、選択肢はむしろ広がる方向にあります。
ただし、受け取りを遅らせれば残高も増え、その分の税額も変わります。単純に「遅いほど有利」とは言えません。
自分ひとりで計算しきるのは、正直かなり難しいです
ここまで読んで、「結局どうすればいいのか」と感じられたのではないでしょうか。
それは当然だと思います。この計算には、退職手当の額、給付金の額、勤続年数、iDeCoの加入期間と残高、受給予定年齢、再就職後の収入、公的年金の見込額——これらすべてが関係します。どれか一つ変わるだけで、答えが変わります。
しかも給付金は、1回目の額が退職時の俸給月額と定年年齢によって決まり、2回目は退職後の所得を踏まえて調整されます。受け取る前の段階で正確な数字を出すこと自体が難しい仕組みです。
そして、判定は退職した日ではなく「支払を受けるべき日」で行われます。この一点を見落とすだけでも、想定が崩れます。
まず、自分の材料を並べるところから
専門家に相談する場合、次のものが揃っていると具体的な比較ができるとされています。
- 退職手当の見込額
- 若年定年退職者給付金の見込額(1回目・2回目)
- iDeCoの残高と加入期間
- 直近の源泉徴収票
- 公的年金の見込額
- 再就職の条件が分かるもの
いきなり全部を揃えるのは大変ですので、まずは何が必要かを知るところからでいいと思います。
人と話す前に、AIに聞いてみる方法があります
「相談したほうがいいのは分かるが、いきなり窓口に行くのは気が重い」という方も多いのではないでしょうか。
「ほけんのAI」は、LINE上のAIチャットにお金の悩みを相談できるサービスです。24時間いつでも使えて、料金はかかりません。人と話す必要もありませんので、自分のペースで質問を重ねられます。
退職金とiDeCoの受け取り順のような、人に聞くには前提の説明が長くなる話こそ、文字でやりとりできる相手のほうが向いていると思います。こうした内容をLINEで相談できる仕組みが用意されているので、まずは自分の状況を入力してみるところから始められます。
必要だと感じた場合には、ファイナンシャルプランナーとのオンライン相談に進むこともできます。進むかどうかは自分で選べますので、AIとのやりとりだけで終えても構いません。
まとめ
積み立てる段階で悩む方は多い一方、受け取る段階まで設計している方は多くありません。ですが手取りを左右するのは、むしろ後者です。
自衛官の場合、退職金を先に受け取る立場になるため、一般向けの解説がそのまま当てはまらない点にはご注意ください。
そして、受け取り方は一度決めてしまうと後戻りできません。定年が近づいてから考え始めるのでは、選べる選択肢が減ります。 早いうちに一度、自分の数字で確認しておくことをおすすめします。
※本記事は2026年10月時点の情報をもとにしています。税制は改正される場合があり、また個別の税額は状況によって異なります。実際の判断にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。